タイトル
「ケーキの切れない非行少年たち」
プロフィール
〈現職歴〉
京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。神戸大学医学部附属病院精神神経科、大阪府立精神医療センターなどを勤務の後、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長を経て、2016年より現職。児童精神科医として、困っている子どもたちの支援を教育・医療・心理・福祉の観点で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員向け等に研修を行っている。
〈資格等〉
医師、博士(医学)、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医、子どものこころ専門医、日本児童青年精神医学会認定医、臨床心理士、日本医師会認定産業医、公認心理師
〈所属学会〉
日本COG-TR学会代表理事、日本発達系作業療法学会顧問
〈著書〉
『NGから学ぶ本気の伝え方』『性の問題行動をもつ子どものためのワークブック』『教室の「困っている子ども」を支える7つの手がかり』『教室の困っている発達障害をもつ子どもの理解と認知
的アプローチ』『感情をうまくコントロールするためのワークブック 困っている子どもを支える認知ソーシャルトレーニング』『対人マナーを身につけるためのワークブック 困っている子どもを支える認知ソーシャルトレーニング』(以上、明石書店)、『不器用な子どもたちへの認知作業トレーニング』『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』『やさしいコグトレ』『社会面のコグトレ 認知ソーシャルトレーニング-1、2』『もっとやさしいコグトレ』(以上、三輪書店)、『1日5分!教室で使えるコグトレ 困っている子どもを支援する認知トレーニング122』『もっとコグトレ さがし算60 初級・中級・上級』『1日5分 教室で使える漢字コグトレ小学1~ 6年生』『1日5分! 教室で使える英語コグトレ小学3・4、5・6年生』『学校でできる! 性の問題行動へのケア』(以上、東洋館出版社)、『不器用な子どもが幸せになる育て方』(かんき出版)、『コグトレ・パズル』(SBクリエイティブ)、『境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)、『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)など計31冊。
講演内容
少年矯正施設において認知機能に問題のある在院者への矯正教育や治療が課題となってきた。特に発達障害や知的障害をもった少年たちは、視覚認知、聴覚認知、学習したことを概念化する力、そしてワーキングメモリや実行機能等に様々な障害をもっているケースが多い。みる力・きく力が弱く支援・教育内容が理解しにくい、目の前にないものを想像する力が乏しい、といった機能的な問題から、自己洞察や内省の深まりに限界が生じ
ている可能性もある。
現在、認知行動療法(以下CBT)は思考の歪みを修正する効果的な治療法の一つとなっている。一方でCBTは、思考の柔軟さ、注意力、ワーキングメモリ、セルフ・モニタニング、抑制力などを含む実行機能といった幅広い認知機能が基礎となっている。このためもし認知機能に障害があれば、これらCBTを使って支援・教育してもなかなか深まらない、積み重ねが出来ないといった対象者たちが存在するのであり、現場で一番手を焼き、かつ本当の支援が必要なのは実はこういった人たちなのである。そこでCBTをより効果的にするためには彼らの認知機能の底上げが必要であると日々切実に感じてきた。矯正施設に限らず、教育現場、福祉施設、医療現場においても同様である。そういった背景から主に認知機能の向上を目的にコグトレを開発してきた。
また現在、知的障害までいかないが一定の支援が必要という境界知能(およそIQ:70 ~ 84)も注目されている。境界知能は人口の約14%いるとされ、学校の35名のクラスに例えると約5名いることになる。知的障害や発達障害と診断されると特別支援の対象になるが,境界知能の子たちはほとんど気づかれず支援対象外になることも少なくない。コグトレはまさにこういった気づかず支援を受けにくいグレーゾーンの子どもたちも対象とした支援プログラムでもある。当日は、認知機能の弱さをもった対象者の現状とコグトレを使った具体的支援について紹介する。