脳血管障害患者における実車運転評価に基づく自動車運転再開に関する研究
~一般高齢者を比較対照とした運転リハビリテーション~

国際医療福祉大学 松下 航
九州大学病院 田中 友章
誠愛リハビリテーション病院 岩下 史郎
白十字病院 深見 優樹
福岡国際医療福祉大学 堀川 悦夫

KeyWords:脳血管障害、自動車運転、リハビリテーション

【はじめに】
脳血管障害を発症した者は、日常生活に支障をきたし、社会的活動に参加する能力が失われやすい。一方で、自動車運転を継続できる脳血管障害患者は、仕事・趣味•その他の重要な日常的活動を継続できることが示唆されており、脳血管障害患者にとって自動車運転を継続して実施することの意義は非常に大きい。脳血管障害後の運転リハビリテーションは、知覚、認知、身体、及び視覚スキルからなる基礎トレーニングと、ドライビングシミュレータや路上トレーニングなどの運転に焦点を当てたアプローチに分類されるが、現在までに、脳血管障害後の運転能力を改善するためのリハビリテーションに関しては、エビデンスが不十分であると結論付けられており、今後更なる検証が必要であると考える。本研究では、脳血管障害患者に対して実車運転評価に基づく運転リハビリテーションを実施して、その効果を検証することを目的とする。

【方法】
参加者は脳血管障害患者25名と現在、日常的に運転を実施している一般高齢者8名である。運転リハビリテーションは、自動車教習所内で行われる2回の実車運転と1回目と2回目の実車運転の間で実施される自動車教習所の指導員による口頭指導で構成された。実車運転の評価方法は、100点を初期値として、減点項目に基づき、対象者の運転に応じて減点方式で評価を行う(減点項目: 20点減点、10点減点、5点減点)。加えて、1回でも発生すると不合格となる重大なエラー(試験中止項目)も存在する。合否に関しては、運転終了時に、試験中止項目に該当する運転ミスが無く、減点合計が30点以下の者を合格とする。統計分析は、脳血管障害患者、一般高齢者それぞれ1回目と2回目の実車運転の成績をt検定に比較した。また、脳血管障害患者の1回目と2回目の実車運転の合否割合についてMcNemar検定を用いて分析した。尚、本研究は国際医療福祉大学、佐賀大学医学部倫理審査委員会にて承認を得ており、参加者には説明を行い、口頭及び書面にて同意を得た。

【結果】
脳血管障害患者の1回目と2回目の実車運転の比較では有意に改善を認めた(p<.001)。また、合否割合についても、1回目の合格者が2名であったのに対して、2回目の合格者は11名となり有意に合格率が向上した(p<.001)。対して一般高齢者の1回目と2回目の実車運転の比較では、1回目の実車運転の成績が高いことも相まって、2回目の方が成績は良かったものの、有意差は認めなかった(p=.092)。

【考察】
今回脳血管障害に対して実車運転評価に基づく運転リハビリテーションを実施した。その結果、実車運転は1回目から2回目で改善を認め、合格率も向上した。また、比較対照群である一般高齢者の結果と比較しても運転リハビリテーションは一定の効果が得られたと考える(各群の1回目と2回目の実車運転評価の比較に関する効果量(d):脳血管障害0.97、一般高齢者0.67)。しかし、本研究にはいくつかの限界もある。一点目は一般高齢者の参加者が少ない点であり、二点目は、参加者の移動等の問題から、実車運転は同Hに二回行われたことである。そのため、運転リハビリテーションによって実車運転評価の結果は向上したが、それが単に繰り返しの効果である可能性も否定はできない。今後の研究では、これらの限界点を考慮し、運転リハビリテーションの長期的な効果について検討する必要がある。