タイトル

脳損傷者に対する自動車運転支援~作業療法士による臨床実践~

 

講演内容

運転支援を行う際には,再び病前のように運転してもらいたいという気持ちで行っている.近年の車社会において運転ができる,できないはその人らしい生活に直結する問題であり,運転中断が社会生活の低下につながるとの研究も報告されている.同時に安全に運転再開が可能な状態かどうか,可能な限り丁寧に検討するよう留意している.認知機能の低下により運転技能が低下するとの研究は多く,認知機能評価に関わる作業療法士の役割は重要である.このような「個人の権利と公共の安全に関する問題」に対する医療技術者(作業療法士)には,運転再開を支援するという医療人の視点と,安全性を見極めるという技術者の視点の両者をもって臨むことが求められる.

作業療法士による脳損傷者への運転支援の報告は1980年代にはなされており,この分野に対する作業療法士の歴史は長い.その一方,道路交通法の変遷などで関与する機会が増えたのはこの10年前後と思われ,いまだ標準的な型といったものは確立されていない.しかし医師から処方が出された後,評価,訓練,福祉用具選択,関連法規の理解,環境調整の実施,などの全体的な流れは,他疾患と同様である.難しいのはこの流れの中に運転支援特有の項目が存在する点である.関連法規の理解において道路交通法の知識が求められる点や,福祉用具選定にあたり片手用ウィンカーなどの運転支援装置が含まれる点などがそれにあたる.

本発表では井野辺病院での臨床経験を通して運転支援特有の項目を提示し、運転支援に必要な知識や作業療法士の役割を報告する.具体的内容としては,神経心理学的検査を用いた運転技能予測,運転技能向上に向けた訓練,運転再開に必要な道路交通法の知識などである.本発表を通して,参加者の運転支援に対する構えの形成に役立てれば幸いである.

 

 
講師:加藤貴志(かとうたかし)

所属:医療法人 畏敬会 井野辺病院 リハビリテーション部副部長