人工膝関節置換術後の疼痛および心理的要因に対するcopingskillsを用いた作業療法実践の効果と術後早期におけるcopingskillsの特徴

福岡リハビリテーション病院 原竜生
福岡国際医療福祉大学 平賀勇貴
福岡リハビリテーション病院 平川善之

Keywords:認知行動療法、痛み、心理社会的要因

【目的】
人工膝関節置換術(TKA) は疼痛や身体機能、生活の質が改善するが(Ethgen2004)、10%から34%の患者で術後3ヶ月以上にわたり中等度から重度の疼痛が遷延している(Beswick2012)。それらの要因には抑うつや破局的思考などの心理的要因の関与が報告されている(Wylde2018)。そのため、術後早期から心理的要囚に対する介入が重要とされる。我々は、慢性疼痛に対して効果のある認知行動療法の代表的な技法であるcopingを用いた作業療法(OT)を術後早期から導入することで、カナダ作業遂行測定(COPM)や疼痛、心理的要因の改善をケースシリーズにて報告した(Hara2022)。しかし、我々の報告がケースシリーズであることから、十分な効果検証ができない限界があった。そこで、本研究の日的は、TKA後の患者に対するCopingを用いたOTによる目標設定や疼痛、心理的要因などの影響を明らかにし、さらには術後早期のCopingの特徴について分析することである。

【対象】
研究デザインは非ランダム化比較対照試験とした。対象者は2021年1月から2022年12月までにTKAを施行し筆頭筆者によるOTを実施した患者36名(全て女性、平均年齢76.8土6.0歳)であり、2021年1月から2021年12月に入院した患者を対照群、2022年1月から2022年12月に入院した患者をCoping群に分類した。本研究は当院における倫理審査委員会の審査及び承諾を得た。

【方法】
TKA後患者に対してCOPM(遂行スコア、満足スコア)に基づいて日標設定を行い、日標に基づいたOTを実践した。Coping群には同時期にCopingの獲得を目的に『Copinglist』をOT実践に導入した。『Copinglist』では、疼痛状況に対して、どのようなCopingが、どのような効果を認めたか記載し、効果を認めたCopingを適当的なCopingとして採用した。まずは、面接を通して使用理解を促し、その後は病院内ホームワークヘ移行した。各測定指標にはOT開始時とOT終了時に疼痛評価としてNumericRating Scale (NRS)を、不安と抑うつ評価としてHospitalAnxiety and Depression Scale (HADS) を、疼痛生活障害の評価としてPain Disability AssessmentSc ale (PDAS)を、生活の質(QOL) として、 EuroQol-5Dimension (EQ-5D)を用いてOTの有効性を評価した。統計学的分析には対照群とCoping群、実践前後を2要因とする2元配置分散分析を行った。統計学的有意水準は5%末満とした。また、適応的であると判断されたCopingについては、KJ法を用いて質的分析を実施した。

【結果】
最終的に研究を終えた対照群は14名、Coping群は14名であった。OT実践前後比較においてCOPMの遂行スコア(p<0.05, 効果量ri2=0.93) と満足スコア(p<0.05, 効果量n2==0.73) に交互作用を認めた。NRS(疼痛)、HADS、PDAS、またはEQ-5Dにおいて効果を認めなかった。術後早期のcopingの特徴について、Physical copingでは、アイシング(100%) などが挙げられた。また、Psychologicalcopingでは、社会的サポート(85.7%)などが挙げられた。Cognitivecopingでは、社会的サポート(78.6%)などが挙げられた。Behavioralcopingでは、気晴らし(71.4%)などが挙げられた。

【結論】
本研究の結果から、TKA後患者にcopingを用いたOT実践が目標達成を促進することが明らかとなった。一方で、疼痛、心理的要因、生活機能、QOLには効果を認めなかった。これらは、TKA後の全ての患者に効果を示すわけではなく、疼痛や心理的要因など慢性疼痛へのリスクが強い患者に対してcopingは効果的であると考える。いずれにせよ、退院後に疼痛の再燃があるため、copingでの自己管理は有効な一つの手段といえる。また、術後早期のcopingの特徴として、アイシングなどのPhysicalcopingだけでなく、社会的サポートや気晴らしなど他のcopingの重要性を強調させる結果となった。最後にcopingは個人の特性を強く反映するため、個々のニーズに応じた介入が重要である。この研究はTKA後のOTにおけるcopingを用いた実践での理解を深め、TKA後のOTにcopingを用いた実践は目標達成を促進される可能性が示唆された。